1892年に設立した酒井ワイナリーは、東北最古のワイナリーで「順境不誇、悲境不屈」というポリシーの元にワインを製造しています。
ワイナリー創設者の酒井弥惣さんは明治・大正時代に赤湯村の村長として16年間勤めていたということで地域に歴史的な貢献をしてきました。2004年にワイナリーを引き継いだ5代目醸造家の酒井一平さんも、先祖の遺志を受け継ぎ、地域社会全体への責任を大切にしています。
現在の南陽市(元・赤湯村)は、江戸時代に始まり、明治時代に開花した歴史を持つ大事なブドウ産地の一つです。ブドウ生産者の高齢化や、ブドウの消費量減少に伴い、かつて成功していたブドウ畑が荒廃している現状を目の当たりにした一平さんは、この地域の復興という挑戦に心を尽くすことを決意しました。酒井家の歴代の醸造家たちは、昭和の時代にワインの人気が下がり日本酒のブームに取って代わられた厳しい時代にあっても、ワインのポテンシャルを信じて希望を捨てることはありませんでした。一平さんは近年またワインの人気が戻りつつあると感じています。伝統的な農業が復活し、赤湯村のブドウ畑に活気が戻ってくる日もそう遠くはないでしょう。
そして、現在の新しいトレンドになりつつあるナチュラルワインの製造に必要な技術、美味しいナチュラルワインを造る為の秘訣は、酒井家にとっては既に長年受け継がれてきているものなのです。酒井家はいわゆるボルドー液を除き、化学肥料や農薬、除草剤、殺虫剤を使わずに健康なブドウを作り、畑によっては人の介入を完全に捨て、植物と動物の共生を積極的に利用するという自然栽培のアプローチをずっと昔から続けています。その最たるものは、ブドウ畑の草取りをする代わりに20頭近い羊たちをブドウ畑で自由に歩き回らせ草を食べさせていることかもしれません。
ワインの製造にも一貫した自然方法を取り入れています。特に、創業以来、無濾過ワイン(ワインを1年間タンクで寝かせ、上澄みだけを取り出して瓶詰めする)の伝統を守り続けていることは酒井ワイナリーの大きな誇りとなっているのではないかと思います。
ブドウは、他の食品同様、できる限りあらゆる部分を残さずに使いきることを前提として大切に扱われます。ブドウは丁寧に選別され、選別されたブドウから部分ごとに別々のワインに使用されていきますが、どの分類にも当てはまらない部分は「まぜこぜ」に使用されています。「まぜこぜ」は日本のブドウのみで作られた高品質で安価なワインを飲みたい人にとっては、コスパの良い理想的なワインとなっています。同時に、酒井ワイナリーには天然酵母による自然発酵のナチュラルワインを良く知る美食家達をもうならせる美味しいナチュラルワインのラインナップが揃っています。
酒井ワイナリーでは、ブドウの粒が小さいことから「小姫」の愛称で親しまれるデラウェア種をはじめ、約20種ものブドウの品種が栽培され、気候の変化や自然が与えてくれる新たな挑戦にどのように振る舞うかを日々研究しながらブドウと向き合っています。